肝機能障害に対する再生医療「期待される肝機能回復:脂肪由来幹細胞治療の可能性」
更新日:2024年11月4日
肝臓の重要な役割と現代人の肝機能障害リスク
肝臓は、食事で吸収した栄養を元に、身体に必要なエネルギー源を作ったり、逆に不必要なものや有害物質を分解除去してくれる、人体の中でも最も重要な臓器の一つですが、現代人は、アルコール摂取や睡眠不足などの食生活習慣の乱れから、肝機能障害を発症しやすい傾向にあります。
コロナ禍の影響と肝機能障害:新たなリスク要因
特に、2020年初頭からの、コロナ感染症との高い関連性は、一部の研究で報告されており、自宅待機やテレワークによる運動量の減少など生活習慣が大きく変わった事と同時にウイルスと肝臓の炎症の関係も示唆されています。これら炎症や脂肪肝などが進行すると、 自覚症状が無いまま進行し、 放置すれば肝硬変や肝臓がんに繋がる可能性があります。更には動脈硬化、心筋梗塞や脳卒中、大腸癌などのリスクも上がると言われますので、 肝臓が正常に働くことが健康を維持するために必要です。 糖尿病、高脂血症、高血圧などと同様に現代病として、 肝機能障害のリスクは多くの国民にとって重要と言えます。
肝機能障害に対する脂肪由来幹細胞治療の可能性
近年、脂肪組織から採取された脂肪由来間葉系幹細胞(ADSCs)が注目されていますが、 この細胞は分化能力(他の細胞に変わる能力) が高く、多様な治療効果が期待されています。 肝機能障害に対しても、ADSCsの治療効果が報告されていて、多数の研究が行われています。
肝臓におけるADSCs治療のメカニズム
ADSCsを用いた肝機能障害の治療においては、主に2つのメカニズムが考えられています。 1つは、ホーミング効果と言って幹細胞がその損傷した部位に遊走して、肝細胞に分化し肝機能を回復させるという考え方。 もう一つは、ADSCsが生体内を巡りながら様々なサイトカインや成長因子、最近明らかになってきたエクソソームなどを放出することで、免疫系の調整であったり肝組織の再生だったり必要な生理活性を促すという考え方です。
肝機能障害に対するADSCsの治療効果は、動物実験や臨床試験においても確認されており、 安全性も高いとされています。また、ADSCsは患者さん自身の細胞ですので、 拒絶反応もないというメリットがあります。
当院の再生医療:脂肪組織採取の最新技術
当院での再生医療において、 脂肪由来の間葉系幹細胞を用いる場合、 その特徴として脂肪採取の方法が他と異なることです。
具体的には次世代型のレーザーアシストによる脂肪吸引(LipoLifeTM-ライポライフ) を使用することで、従来法と比較して大幅に患者さんへの侵襲度が低くなり、術後の回復の速さや痛みの軽減化に貢献しています。また、もう一つの大きな特徴は従来法に比べて、ライポライフで獲得した脂肪組織(細胞)は、細胞のバイアビリティー(生存率)が95%以上と大幅に質の良い組織を採取することが可能となりました。
培養して細胞数を増やす場合は、あまり関係ないと思われますが、採取した時の細胞をより多く凍結保存したい場合などは、 バイアビリティーが高いことはとても都合が良い場合が多いです。特に本治療とは別の治療になりますが、培養せずに脂肪組織の中にあるだけの幹細胞群を寄せ集めてきて、未加工で治療に利用するような治療においては、絶大な効果を発揮します。因みに、この方法では、培養技術を使わないので細胞を増やして戻すことができませんが、コピーして複製しないので細胞が劣化しないことと、幹細胞以外の幹細胞をサポートする細胞群 (ニッチ) も同時に身体に戻せるので、そこは大きな利点です(別項参照)。
再生医療の限界と期待される効果
しかしながら、 これは全ての幹細胞を用いた再生医療について言えることですが、 まだ有効性の確認が未確立であるため、 治療効果の推移が予想困難なこともありますし、 全ての患者さんに等しい効果が得られるわけではありません。
ライポライフについて…:術後のダウンタイムが従来法に比べて明らかに短く、 痛みも少ないことが特徴で、 細胞の生存率もコンスタントに高く、 豊胸など目的で脂肪組織を加工せずにそのまま注入することも可能であることが非常に画期的なところであり、 海外でも非常に人気が高いです。 日本では再生医療の為の脂肪由来幹細胞のソース採取目的で非常に有用な医療機器と期待されるところです。
当院の幹細胞治療への思いと研究連携
当院の理事長はもともと眼科の分野で幹細胞を用いた細胞シートによる眼表面再建をメインテーマとして、世界初の技術に携わり再生医療の研究を行っていました。その流れでアメリカのフロリダ州マイアミにあるオキュラーサーフェスセンターにて2005年から約2年半、幹細胞とニッチ(微小環境)をテーマとして研究に携わってきました。幹細胞研究は細胞培養ありきなのですが、ニッチの重要性に目をつけ、当院では組織から獲得した細胞群を非培養(未加工)の状態で投与する治療も行っています。
メリットは微小環境の重要性の観点から幹細胞以外のニッチ細胞を含んだ細胞群も一緒に獲得し投与できることで、より効果の高い治療を提供できる可能性があることです。また、 培養という細胞をコピーして増やすことをしていないため、細胞劣化のリスクもありません。現にこの技術は確実に効果を示しており、当院で使用しているサイトリ社のセルーションセルセラピーキットは男性腹圧性尿失禁治療のための医療機器として国内承認を取得しており、今後は保険適用が待たれるものです。
デメリットは少量の組織から幹細胞を培養という技術で増やすことができることに対して、 細胞源の絶対量がある程度必要となることです。
その量が確保できない患者さんは適応外になってしまいますが、確実にその治療効果の可能性を感じられる治療と考えています。
これらの技術を利用して、当院では慢性疼痛の治療(セルーションセルセラピーキット) と毛髪再生の治療(カネカの細胞濃縮技術)も行っております。
更には統括院長である日比野佐和子を中心に、大学や研究機関とも連携をとってより良い治療の開発に向けても活動しております。
当院の再生医療は、重度の肝硬変 ( Child Pugh C )、 肝性脳症、 重篤な疾患、 悪性腫瘍、 未治療の活動性の感染症を有する人は、 本治療をおこなうことはできません。