• iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた子宮頸がん免疫療法

    投稿日:2025年1月30日
    更新日:2025年1月30日
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    子宮頸がんとは

    子宮頸がんは、子宮の入り口である子宮頸部に発生するがんで、多くは、(CIN:Cervical Intraepithelial Neoplasia)や、上⽪内腺がん(AIS:Adenocarcinoma in situ)といった、がんの前段階(前がん病変)を経て、がんに進行するといわれています。子宮頸がんは、進行すると周りの組織に広がったり、骨盤の中のリンパ節に転移したり、子宮から離れた肺などの臓器に転移したりすることがあります。

    腟に近い側にできた場合には、婦人科の診察や検査で発見しやすく、早期に見つけて治療できれば、経過も良いことが多いそうですが、奥側にできた場合は見つけるのが難しく、進行してしまうと治療が難しいため、予防や早期発見が重要だといわれています。

    子宮頸がんの主な原因

    主な原因としては、性的接触によってヒトパピローマウイルス(HPV)に感染することが挙げられます。実は、このウイルスは非常に一般的で、男性も女性も感染するありふれたウイルスで、多くの人が一生のうちに一度は感染するといわれています。ちなみに、男性に関しては、肛門がんや陰茎がん、中咽頭がんなどの原因になるといわれています。

    HPVに感染しても、約90%の人は自身の免疫の力でウイルスが自然に排除されますが、約10%の人はHPV感染が長い期間持続します。そして、自然治癒しない一部の人は、異形成と呼ばれるがんの前段階(前がん病変)を経て、数年以上かけて子宮頸がんに進行していきます。

    以前は、発症のピークが40代~50代でしたが、近年では20代~30歳代の若年層にも増えてきており、30歳代後半がピークとなっています。

    日本産科婦人科学会などによると、国内では、毎年約1万人の女性が子宮頸がんにかかり、約3000人が死亡しており、また2000年以後、患者数も死亡率も増加しているとのことです。また、子宮頸がんの治療によって子宮を失い、妊娠ができなくなってしまう方もいます。

    子宮頸がんの予防方法

    HPVワクチン接種の重要性

    予防について、ひとつめは、ワクチン接種が挙げられます。

    子宮頸がんの主な原因のひとつである、HPVの感染を予防することにより、子宮頸がんの発症を防ぐHPVワクチンが開発され、現在世界の70カ国以上で接種が行われています。HPVワクチンにより、子宮頸がんの60~70%を予防できると考えられており、WHO(世界保健機関)はその有効性と安全性を確認し、一般的に性交渉を経験する前の10代前半での接種を推奨しています。

    欧米などの先進国や日本においても、ワクチン接種によってHPV感染率や前がん病変の頻度が、接種をしていない人に比べて減少することが明らかになっています。

    HPVワクチンは、日本では2009年に承認され、2013年4月より定期接種となりましたが、接種後に様々な症状が生じたという報告によって、2013年より自治体による積極的勧奨が差し控えられました。しかし、接種後に生じた様々な症状の原因は、ワクチンによるものであるという科学的な証拠は示されておらず、厚生労働省専門部会においても因果関係は否定されており、2021年に「HPVワクチンの安全性について特段の懸念が認められないことが確認され、接種による有効性が副反応のリスクを明らかに上回ると認められた」ため、積極的勧奨が再開されました。

    そのため、1997年から2008年生まれの女性の中には、定期接種の対象年齢であった頃に、ワクチン接種の機会を逃してしまった人がいます。まだ接種を受けていない人や、ワクチン接種を合計3回受けていない人は、キャッチアップ接種として、2025年3月まで公費による接種を受けることができます。

    ワクチン接種は、子宮頸がん予防のための有効な選択肢のひとつですが、必ずしも副反応がないというわけではありませんので、医療機関にて十分な説明を受けたり、厚生労働省のウェブサイトなどを閲覧するようにしてください。

    定期検診の重要性

    ふたつめは、定期検診です。

    検診では、がんの前段階(前がん病変)がないかも調べるので、早い段階で発見することができます。ワクチンの接種に加えて、子宮頸がんに対する定期検診を受けることで、予防効果も高めることができます。

    ワクチンでは防げない種類のHPVや、HPV感染以外の原因によるリスクもあるため、定期的に検診を受けることも非常に重要だといわれています。

    子宮頸がんは、早期の段階では、ほとんど自覚症状がなく、進行するに従って異常なおりもの、月経以外の出血(不正出血)、性行為の際の出血、下腹部の痛みなどが現れてきます。これらの症状がある方は、早めに婦人科で診察を受けることが推奨されますが、早期の段階では自覚症状がないことからも、定期的な検診も重要です。

    子宮頸がんの治療法

    続いては、万が一、罹患してしまった場合の治療法についてです。

    進行度に応じた治療法

    現在の治療法としては、ステージにあわせて、手術、放射線療法、抗がん剤(化学療法)のいずれか、もしくは複数を組み合わせて行います。

    また、治療後の妊娠希望の有無、年齢や生活環境なども踏まえて、医師としっかり話し合って最適な治療法を選択することも重要となってきます。

    妊娠を考慮した治療選択

    がん病変やごく初期の場合は、子宮の一部のみを切除する円錐切除術という手術で取り除くことができ、この場合は子宮を残すことができるため、妊娠や出産の可能性を残すことができます。早産などの後遺症が残る可能性があるものの、年間約13,000人の女性が円錐切除術を受けているとのことです。

    進行したがんに対しては、広汎子宮全摘出術が用いられ、子宮頸部やリンパ節を幅広く切除するため、身体への負担が大きく、合併症のリスクが高くなります。この際、卵巣を切除するかどうかは、年齢や病期などを考慮して決められます。

    また、治療費用だけでなく、長期療養による収入減少などの懸念もあります。

    このように、子宮頸がんは早期に発見できれば、子宮を守ることができる可能性があり、進行した場合での手術は、術後の後遺症も大きくなります。そのことからも早い段階での発見が重要であり、そのためにも定期検診を受けることが推奨されています。

    iPS細胞を活用した新たな免疫療法の可能性

    再生医療では、がんに対する免疫療法が行われています。

    子宮頸がんに対する免疫療法の仕組み

    子宮頸がんの細胞は、HPVの感染によって発症することが多いため、HPVに由来するタンパク質を有していることが多いそうです。そこで、このタンパク質に対して有効な免疫細胞「T細胞」を用いて、がん細胞を攻撃させるという治療があります。

    しかし、子宮頸がんの患者さんでは、体内のT細胞の数が少ないため、治療に十分な量を確保することができないといわれています。

    iPS細胞由来T細胞の開発

    そこで、順天堂大学など複数の大学や企業で構成された研究グループは、T細胞を十分な量持っている、健康な人の末梢血からT細胞を採取し、そこからiPS細胞を作製し、そこから再度T細胞を製作することに成功しました。

    しかし、元となるT細胞は、患者さん本人ではなく、健康な人から採取しており、他家という他人由来の細胞になるため、ドナーの遺伝子情報などが含まれていますので、リスクが排除しきれません。そこで、研究グループは、ゲノム編集によって遺伝子情報のみを削除することで安全性を確保するとともに、従来の末梢血由来のT細胞よりも、持続的で強力な細胞傷害活性を持つiPS細胞由来T細胞を作製することに成功しました。

    このiPS細胞由来T細胞を用いた治験が、従来の治療で効果が見込めない、再発した子宮頸がん患者12人対象に開始されました。この治験が成功することで、マザーキラーとまで呼ばれる子宮頸がんの新たな治療法となる可能性が期待されています。

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