PRP(多血小板血漿)によるAGA治療
更新日:2025年2月13日
頭髪は外見上目立つ部分であり、毛髪量、色調、長さ、色調、スタイルなどは個人の印象を大きく左右します。いわゆる「薄毛」(医学的には脱毛症)が進行すると、セルフイメージが損なわれ、心理的負担が大きくなります。したがって脱毛症の治療は美容医療の大きなテーマの一つです。脱毛症の治療にはさまざまなものがありますが、従来の治療で効果が少なかった方への新しい治療としてPRP治療は注目されています。
PRPとは
PRPは末梢血よりも高濃度の血小板を含む血漿のことです。血小板の中には各種の成長因子とサイトカインが含まれ、創傷治癒と組織再生を促進することが知られています。現在、美容治療(しみ、シワ、ざ瘡後陥凹性瘢痕、肌質改善、脱毛症)や、口腔外科、整形外科、心臓外科、小児外科、婦人科・生殖医療、泌尿器科、眼科など、さまざまな領域で応用されています。
PRP作製には、患者本人の血液10~30ml程度を採取し、遠心分離器にかけ、血小板が多く含まれた血漿を分離します。PRPを作製する機器は様々なものがありますが、高度管理医療機器クラスⅢの認可を得たものか、米国FDA認可の製品が推奨されます。各作製機器により作製条件が異なり、得られるPRPの量や性質も製品により異なります。最適な結果を得るためには、全血の血小板数の2~6倍の濃度が必要とされています。
毛包と毛周期
毛を産生する皮膚付属器官が毛包であり、深部の毛母細胞と立毛筋付着部の隆起部(バルジ)にある幹細胞が細胞分裂して毛が産生されます。
毛組織は一定の周期(頭髪で約4年)で成長と退縮(成長期、退行期、休止期)を繰り返します。次の成長期が始まるときに毛髪は脱落します。何らかの原因で毛周期が障害され成長期の短縮や休止期の延長がおこる、または毛母細胞や幹細胞への何らかのダメージにより毛包矮小化がおこると、脱毛量の増加や軟毛化を引き起こします。
脱毛症の種類と症状
美容医療的に重要な脱毛症は、男性ホルモンによって引き起こされる脱毛症(androgenetic alopecia:AGA)で、男性に起こるものを男性型脱毛症(male pattern hair loss: MPHL)、女性に起こるものを女性型脱毛症(female pattern hair loss: FPHL)といいます。
それらの原因は、遺伝的素因と男性ホルモンの一種のジヒドロテストステロン(DHT)です。DHTが男性ホルモン受容体(アンドロゲンレセプター)に結びつくと、成長因子の一つであるTGF-β1が生成されます。これが毛包細胞に存在する受容体に結合すると、毛包細胞の細胞自然死(アポトーシス)が起こり、毛周期が退行期へ誘導されます。毛周期の成長期は短縮し、次第に毛組織はミニチュア化を起こします。すると毛包は太い毛髪を形成できなくなり、硬い毛が軟毛化を起こします。このため年齢とともに徐々に頭髪が細く短くなり、最終的に頭髪が生えて来なくなる部分が広がります。
女性型脱毛症も男性型脱毛症と同様、遺伝と男性ホルモンの影響が主な原因ですが、現在では女性ホルモンの低下も関与していると考えられています。進行性の毛包の小型化、軟毛化が特徴で、特に、頭皮の中央部、前頭部、頭頂部の毛髪密度が低下し、びまん性の脱毛症となります。
鑑別すべき脱毛症のひとつとして、円形脱毛症(alopecia areata : AA)があります。突然脱毛して円形や楕円形の頭皮に脱毛斑ができます。頭皮の広範囲にびまん性に生ずることもあり、頭部だけでなく体部にも発症する場合があります。原因は自己免疫の異常で、免疫細胞により成長期毛包が攻撃を受け、退行期毛包に移行するからです。皮膚科を受診し、適切な治療を受けることが必要です。
他にも鑑別すべき脱毛症にはさまざまな種類があり、PRP治療を始める前に正しい診断が必要です。
脱毛症の一般的治療
ミノキシジル溶液の外用は男性型脱毛症、女性型脱毛症に有効であり、男性型脱毛症には5%溶液1日2回、女性型脱毛症には1%溶液1日2回の外用が認可されています。海外では女性型脱毛症に対して2%溶液を1日2回、または5%溶液を1日1回頭皮へ塗布することも認可されています。
ミノキシジルは毛周期の成長期を延長し、抜け毛を減らすので、毛髪の増加効果があるとされます。また頭皮の血流も増加します。
男性型脱毛症に対しては、原因物質のひとつとされる男性ホルモンのジヒドロテストステロン(DHT)の産生を阻害する薬剤(フィナステリド、デュタステリド)の内服が有効です。これらは男性のみが服用が可能であり、女性には適応がないため、治療の選択肢が限られます。
円形脱毛症に対しては、ステロイドローションの外用や抗ヒスタミン薬の内服が行われます。6ヵ月以上続く場合は、ステロイド局所注射も行われます。
PRP(多血小板血漿)によるAGA治療
PRP療法で対象となる脱毛症は男性型脱毛症、女性型脱毛症、円形脱毛症です。男性型脱毛症の方はフィナステリドまたはデュタステリドの内服とミノキシジル溶液塗付の治療を行った上で、女性型脱毛症の方はミノキシジル外用液による治療を行った上で、さらに効果を得たい場合にPRP療法の適応となります。皮膚科で治療を行っても難治である円形脱毛症の方は、主治医と相談のうえでPRP療法を試すのも一つの方法でしょう。
やみくもにPRP療法を始めるのではなく、正しい診断のうえで治療法を選択しましょう。
PRPの作用
血小板には炎症、血管新生、幹細胞や細胞増殖に影響を与えるサイトカイン・成長因子が豊富に含まれており、それらが組織再生や創傷治癒効果をもたらすことが知られています。
血小板から放出される主な成長因子は、血小板由来成長因子(platelet-derived growth factor、PDGF)、TGF-β(transforming growth factor β、トランスフォーミング増殖因子-β)、VEGF(vascular endothelial growth factor、血管内皮細胞増殖因子)、EGF(epidermal growth factor、上皮成長因子)、HGF(Hepatocyte growth factor、肝細胞増殖因子)などがあります。これらは細胞の増殖や分化をうながし、組織修復再生、血管新生、結合組織のリモデリング、細胞周期の調整に重要な役割を果たします。また血漿中には成長因子、サイトカイン(IL-1βなど)、ケモカイン、タンパク質、エクソソームが豊富に含まれています。
PRPの種類には、含まれる白血球濃度に応じてLR-PRP(leukocyte rich PRP、白血球の多いPRP)、LP-PRP(leukocyte poor PRP、白血球を多少含むPRP)、pure-PRP(白血球はほとんど含まないPRP)があります。PRPに白血球が多く含まれると、異化因子であるMMP-9も高濃度に存在するので、注入後の炎症反応が強くでると考えられます。
PRP作製にはオープン法とクローズド法、シングルスピン法とダブルスピン法があり、それぞれ特徴があります。当院ではクローズド法、シングルスピン法でPRPを作製可能である、Mycells PRP作製キット(高度管理医療機器クラスⅢ)を使用し、約3倍の血小板を含んだPRPとして臨床応用しています。
PRP作製の手順
患者の静脈血を専用試験管に採取し、遠心分離を行い、赤血球と血漿を分離します。血小板はフィルターの上部に沈殿するので、上部の血小板がほとんど入っていない血漿(PPP)を吸引・破棄し、下部の血小板が豊富な血漿(PRP)を取り出します。PRPは1ml 注射器やメソガン用の注射器に入れます。血小板活性化は組織内に注入後、体内のカルシウムイオンによって起こるので、血小板活性化のためのカルシウム溶液混入は行いません。
PRPの頭皮への注入
頭皮へは従来、用手法で頭皮内に等間隔で膨疹を作りながら注入する方法が行われてきましたが、注入圧が高いため、注入時の疼痛が強く、一時的な脱毛が起こる危険がありました。しかしメソガン(メソインジェクタU225、Needle Concept、France)(図3c)を使用すると、疼痛が比較的軽度なので、治療前の神経ブロック術や麻酔クリーム塗付を行わずに注入可能です。
治療当日はシャンプーを控えて頂きますが、翌日からは可能です。皮膚の発赤、熱感、腫脹が現れる可能性はありますが、通常は1週間以内に消失します。
PRPに含まれる成長因子と生物活性分子は、毛髪の形態形成と毛周期の調節に関与しており、毛乳頭細胞の増殖を促進し、抗アポトーシス効果をもたらします。また血管新生を増加させ、毛周期の成長期を延長すると考えられています。数回の治療を繰り返すと、抜け毛量の減少や、毛髪が太くなった自覚を持つ方が多いです。トリコスコピーでは細く短い毛である軟毛の割合が減少し、毛髪が太くなることが観察されます。
PRP療法は効果に個人差があるものの、副作用が少なく、低侵襲で、反復治療が可能です。多くの報告があり、PRPが脱毛症や皮膚の若返りに有効であることが示唆されています。自己血を使用するため、アレルギー反応や感染症、異物性肉芽腫形成、血管塞栓等のリスクが低く安全性の高い治療です。効果の現れ方や持続期間に個人差がありますが、従来の治療で十分な効果が出ない症例に追加することで、より良い結果が得られることが期待されます。
PRP療法は自己血の血小板を濃縮し、治療部位に注入することで、シワ、しみ、たるみ、ざ瘡後瘢痕、脱毛症などを改善する治療法です。アレルギー反応や感染症のリスクが少なく、安全性が高い治療です。
青山エルクリニックのPRP治療実績とクリニック選びについて
青山エルクリニックでは2種類のPRP治療を行っています。ひとつは前述の「自己多血小板(PRP)を用いた薄毛治療」(以下「PRP育毛」)、もうひとつは顔の小じわ改善や皮膚の質感の向上を目的とした「自己多血小板(PRP)を用いた美容療法」(以下「PRP顔」)です。
いずれも厚生省への届出を完了し毎年定期報告を行っている治療です。
PRP顔はPRP育毛より早い2015年11月より開始し219名(748件)の実績があります。PRP育毛は2019年11月より開始し136名(491件)の実績があります。
(いずれも2025年2月現在)
当院では多くの患者様にPRP治療をご提供し長い治療経験がある他、多くの学会での発表、そしてPRP治療を始める医師に対して教育・指導も行ってきました。
また治療当初より安全性を考慮しPRPにbFGFなどの人工的な成長因子は添加しておりません。皮膚内の組織に過剰な反応を起こし、しこりや凸凹などのトラブルや副作用を起こす心配はありませんので安心して治療を受けていただけます。
PRP治療を選択し満足のいく治療を受けるには施術する医師がPRP療法を正しく理解しているクリニックを選ぶことが重要であり、患者様自身も治療に対してご理解いただくことが大切です。
PRP育毛治療もPRP顔治療も1回で完結する治療ではありません。
症状の改善や効果の持続においては医師の診断により複数回の継続的な治療を受けていただくことをお勧めします。
アレルギー反応や感染症のリスクが少なくご自身の細胞によって脱毛症状や顔の小じわ・皮膚老化を改善されたい患者様はぜひ治療選択の1種としてご検討ください。
「自己多血小板(PRP)を用いた薄毛治療」(PRP育毛)
「自己多血小板(PRP)を用いた美容療法」(PRP顔)
図1. 作製したPRPを頭皮注入用インジェクタに装着したところ

図2-a. 女性型脱毛症。 治療前。 頭皮が目立つ。

図2-b. 治療前の拡大写真。 全体的に毛髪が細く、細く短い毛(軟毛)が多い

図2-c. 2~3ヵ月に1回、計5回PRP治療後、8ヵ月の状態。薄毛は改善した。

図2-d. PRP治療5回後の拡大写真。毛髪は太くなり、軟毛は減少した。
