• PRPを用いた靭帯・腱および腱付着部の機能障害・疾患の治療

    投稿日:2023年1月30日
    更新日:2023年11月2日
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    再生医療とは、怪我や病気などによって失ってしまった機能を元通りに戻す治療を、本来ヒトが有する「再生する能力」を利用して行う医療のことです。一般的な薬物治療とは性質が異なる治療といえます。

    PRP(Platelet Rich Plasma多血小板血漿)を用いた治療は、再生医療の治療法の一つです。

    血小板は、血液中の細胞成分の一つで、人体の組織が損傷を受けて出血した際、血液を凝固して止血をする細胞です。血小板には、血液を凝固・止血する機能以外に、数十種類の成長因子やサイトカインというたんぱく質を放出し、炎症を抑え、損傷した組織の修復を促進する能力があります。この血小板の有する抗炎症作用・組織修復促進能力を用いた靭帯・腱および腱付着部の機能障害・疾患を治療するPRP療法について解説していこうと思います。

    靭帯は関節を挟み、骨と骨とをつないで関節を安定に保つ組織で自身で収縮・弛緩する筋肉(動的支持機構といいます)と違い、自ら動くことができないため静的支持機構と呼ばれます。

    腱は、筋肉の両端の終末部に存在する実質部分で動的支持機構の一部ということができます。

    腱は、筋肉が骨に付着する部位を特別に腱付着部(Enthesis)と呼び、腱の傷害とは区別して考えることが重要です。

    1. 靭帯・腱実質の急性外傷(断裂や部分断裂など)に対するPRP療法

    靭帯・腱実質の急性外傷(断裂や部分断裂など)に対するPRP療法

    肉離れも該当しますが、筋肉・靭帯・腱実質が一度の大きな外力を受けて組織損傷を受けた急性外傷にもPRPは有効です。

    組織損傷を受けた患部は出血を起こします。この創傷が治っていく過程は、血小板が出血部位に集結し血液を凝固、止血することから始まります。止血を担う血小板からは、軟部組織修復を手助けするたんぱく(成長因子)や炎症を鎮めるたんぱく(サイトカイン)が数十種類放出されることがわかっています。この成長因子が軟部組織のもととなるコラーゲンの沈着を促し成熟した靭帯や腱組織の形成を促進していきます。

    出血部位に集結する血小板から放出される成長因子に加えて、本人の循環血液を採取し作成される血小板(PRP)を患部に注入することで、多くの成長因子・抗炎症サイトカインを損傷部位に充満させて組織修復を促していく、これがPRPの軟部組織治癒のメカニズムです。

    野球の投球傷害である急性肘尺側側副靭帯損傷や、スポーツ全般にみられる肉離れ、アキレス腱部分断裂等に利用されています。

    昨年の東京オリンピック開催期間中に大内転筋を肉離れした外国人女子サッカー選手に受傷早期にPRP療法を行ったことがあります。

    PRP施行後、2週という超早期に公式戦に復帰できた例を経験しました。

    スポーツ復帰を急ぐ場合に試したい治療法です。

    2. 靭帯・腱実質の慢性障害(慢性の腱炎、靭帯実質炎など)に対するPRP療法

    靭帯・腱実質の慢性障害(慢性の腱炎、靭帯実質炎など)に対するPRP療法

    同じスポーツ動作の繰り返しで小さな外力が患部に加わり続けて生じる組織損傷を、使いすぎ症候群、オーバーユースといいますが、医学用語では障害(傷害ではなく、この漢字を使います)といいます。

    小さな組織損傷が起こっては癒え、癒えては起こり、を繰り返していくと軟部組織は「変性」といって、治らない悪い組織に置き換わっていきます。変性した組織は、正常組織と違い脆弱で機能的にも劣り、最終的には慢性炎症の原因となり、痛みや機能障害が残ってしまいます。 

    英語で 再生はregenerationといいますが、変性は真逆でdegenerationといいます。この言葉だけでも理解していただけるのではないでしょうか。

    Degenerateした軟部組織をregenerateする、すなわちリモデリングするのがPRP療法です。このとき大切なことは、変性した組織を無くしていく過程が必要になりますが、この時に利用するPRPは白血球を多く含むLR-PRPを使うことです。PRPにもいろいろな種類があるので、どのPRPを利用するかを医師と相談の上決定することをお勧めします。

    治療例を紹介します。70代男性、アキレス腱実質の変性による疼痛を数年間患い、他院整形外科で消炎鎮痛剤の内服薬や外用薬(湿布や塗り薬)を処方され、数回ステロイド注射を受けた患者さんを治療したことがあります。MRIでは、腱周囲ではなくアキレス腱実質部内に変性した組織を認め、腱は高度に腫れていました。超音波を使いながら、アキレス腱変性部にLR-PRPを注入しました。

    PRP療法施行後2週目から徐々に痛みが減り始め、そのころから理学療法を併用、PRP療法施行後約3か月で自覚的な痛みは消失(圧痛は軽度あり)、長年続いた腫れも徐々に、無くなっていき、PRP療法施行半年後には痛みも腫れもなくなり、ゴルフに復帰されました。

    その時点で撮影したMRIでは、アキレス腱実質に存在した変性した組織は、成熟した腱組織に置き換わっており、まさに再生されたアキレス腱でした。

    この例のように、長年つづく腱炎や靭帯炎にPRP療法が有効な例もありますので、他の治療に効果がない方は一度PRP療法を試す価値はあると考えます。 

    3. 靭帯・腱付着部の機能障害(付着部傷害)

    靭帯・腱付着部の機能障害(付着部傷害)

    靭帯や腱が骨に付着する部位(Enthesis)の傷害は、腱・靭帯実質部の傷害と区別し考える必要があります。この部位の傷害は、付着部傷害(Enthesopathy)といい、スポーツ傷害のなかでも、治療に難渋することが度々あります。具体的には、ジャンパー膝(膝蓋腱炎や大腿四頭筋共通腱炎、オスグッド病)、テニス肘(上腕骨外側上顆炎)、ゴルフ肘(上腕骨内側上顆炎)、肘尺側靭帯損傷の一部(肘尺側靭帯付着部炎)などが挙げられます。

    御覧のように、診断名には○○炎、という組織の炎症という病名がついていますが、難治性の付着部傷害の病態は炎症だけではなく、付着する腱・腱付着部の変性degenerationが存在します。時に腱が付着する骨の中にも変性が起こることもあります。腱付着部の変性した組織の再生regenerationなくして付着部傷害の治癒は期待できませんが、骨内病変が存在するときには、PRP療法は適応ではありません。

    では、付着部ではいったい何が起こっているのでしょうか?

    まずは、通常の組織の炎症で起こる炎症も起こっています(なので、○○炎という診断名になります)。組織が損傷をうけると、炎症がおこり、軟部組織から痛みを発生するプロスタグランジンが生成されます。いわゆる消炎鎮痛剤はこのプロスタグランジンの生成を抑制することで疼痛を鎮めてくれます。付着部傷害の初期には、これで十分な治療となるこが多いといえます。

    しかし、なんどもなんどもこの組織傷害が繰り返し起こると、組織が変性していき、変性した組織からは炎症をおこさせるたんぱく(炎症性サイトカイン)が放出されて、組織の変性を悪化させていきます。この時期になると消炎鎮痛剤では抑えきれない炎症性疼痛(サイトカイン誘発性炎症)が始まっていき、機能障害も顕著になります。

    MRIでも付着部組織に変性像がはっきりと映ることが多いです。

    この難治性の付着部傷害にも、PRP療法は有効です。PRP中に存在する抗炎症性サイトカインで炎症を鎮め、成長因子で変性した組織の再生(リモデリング)を促進させることを期待します。一回のPRP療法ですべての痛みが引かないときには、複数回PRP療法を行うことで治療効果が高まっていくことを経験しています。

    私は、陸上短距離トップ選手やバレーボールトップ選手の難治性のジャンパー膝にLR-PRPを投与して数か月後には、スポーツ復帰できた症例も経験しています。

    テニス肘、ゴルフ肘、肘尺側靭帯損傷で骨内病変がない症例のPRP療法著効例も、数多く経験しています。

    まとめ

    ヒトが本来持っている再生能力を最大限に利用する再生医療であるPRP療法は、ご自身の血液成分を体に戻す治療なので健康被害も想定されず、難治性の傷害の治療や早期スポーツ復帰を可能にする治療法です。PRPにもいろいろな種類がありますが、病態に応じて使い分けが大切といえます。

    PRP療法は、スポーツ選手に限らず、痛みで日常生活に困っている一般の患者さんにも積極的に受けていただきたい新しい治療です。PRP療法に精通した経験豊富な整形外科を受診しご相談されることとお勧めいたします。