変形性膝関節症と診断されたら知ってほしい再生医療の治療効果
更新日:2023年11月2日
中高年世代の膝の痛みの原因として圧倒に多いのが変形性膝関節症です。
変形性膝関節症は、関節の軟骨がすり減って薄くなったり、なくなってしまうことで膝の形が変形し、痛みや腫れをきたす状態です。
患者数は2,530万人、そのうち痛みがある人は800万人ともいわれます。
初期はこわばりを感じる方が多く、立ち上がる時や階段などで膝に体重がかかった時に痛みがでます。進行して重症となると、腫れがひかなかったり、曲げ伸ばしがしづらくなったり、関節の本来の滑らかな動きが障害されます。
症状が進行する前に治療を始めることが大切です。
変形性膝関節症の保存加療と手術の間をつなぐ再生医療
運動療法や痛み止めの服用、ヒアルロン酸注射などを続けても効果が得られない場合、人工関節などの手術を検討する必要もできてきます。
しかし、手術加療を希望されない方も少なくないため、希望に沿った治療が難しい現状もありました。近年、保存加療と手術の間をつなぐ新たな治療選択肢として再生医療による治療も登場し注目を集めています。
変形性膝関節症への再生医療に対応している施設は増加
現在、国内で変形性膝関節症に対する再生医療では、患者さん自身の脂肪から得られる幹細胞を培養し、増やしたのち膝へ注入する脂肪由来培養幹細胞治療と、血液に含まれる血小板を活用し、痛みの改善や組織修復を目指すという多血小板血漿療法があり、それらを提供できる施設も増えてきています。
脂肪由来培養幹細胞治療
脂肪組織には幹細胞と呼ばれる細胞が含まれており、これを脂肪由来幹細胞といいます。幹細胞は、脂肪以外にも骨髄や、関節を裏打ちしている滑膜という組織からも採取できますが、一般的にクリニックでは採取のしやすい脂肪組織が選択されることが多いです。
脂肪由来幹細胞は、自分自身のコピーを作ることができたり、骨や軟骨、筋細胞、血管新生に関わる細胞などになることができます。
関節内に投与された幹細胞は、軟骨に分化する能力を持つだけでなく、周りの細胞や組織に作用して、関節の炎症を抑え、組織修復や軟骨の再生を促すことが期待できます。この作用により関節症の進行を食い止め、進行を遅らせる効果があると考えられています。
多血小板血漿療法
また、多血小板血漿療法はPRP (Platelet Rich Plasma)療法と言われ、ご自身の血液中に含まれる血小板の成長因子が持つ組織修復能力を利用し、本来備わっている治癒能力を高め、治癒を目指す再生医療です。
血小板は、血管が傷ついたとき、傷ついた場所に集まって血を固める働きがあります。その際、血小板から多量の成長因子が放出され、これらの成長因子の効果により、組織の修復が早まり、治りにくい組織の修復や関節炎の症状が軽快することが期待されます。
変形性膝関節症の進行が軽いうちに受ける方が治療効果が得られやすい傾向
どちらの治療もご自身から作られたものを戻す治療であるため、安全性が高いことは分かっていますが、比較的新しい治療法のため、現時点では保険適用外の治療となり、自費での治療となります。有効性や長期成績などの十分なデータの蓄積は今後の課題といえますが、変形性膝関節症の進行が軽いうちに受ける方が効果を得られやすい傾向にあります。
膝などの関節の痛みは、健康寿命に大きく影響するといわれています。
当クリニックでも今まで膝の痛みのために思うような生活が送れなかった方が、再生医療によって痛みが軽減されたことで活動量を高めていく例は少なくありません。動くことで減量が進み、また痛みが落ち着くことで膝周囲の筋力トレーニングにも取り組みやすく、関節の負担を減らす好循環のきっかけとなります。
これまでの治療で痛みが改善されず、かといって手術にはまだ踏み切れないというときに試す価値のある治療の選択肢と言えます。
ただし、手軽さや高い安全性から注目が集まる治療ですが、治療効果には個人差もあり、再生医療といっても万能ではなく、過度な期待は禁物です。
近年、変形性膝関節症の治療選択肢は広がっていますので、主治医と相談のもとご自身にあった治療を選択して頂きたいと思います。