• 自家多血小板血漿(PRP):不妊治療の新たな道、着床成功への足がかり

    投稿日:2023年10月2日
    更新日:2023年11月2日
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    近年、再生医療の様々な分野への適用が進んでいます。不妊治療の分野では新たなアプローチとして、「自家多血小板血漿(PRP)」を、子宮内膜の肥厚化を促進する手段として使用するようになってきました。

    妊娠の成功に子宮内膜の厚さが重要

    不妊治療の中でもとくに体外受精において、胚が着床する際の子宮内膜の厚さが極めて重要です。健康な子宮内膜は、胚を受け入れ、成長できる環境を提供します。しかし、子宮内膜の薄さや不十分な血流によって、妊娠のチャンスが減少してしまうことがあります。具体的な所見でいうと、経腟超音波検査での観察で、7mm未満の厚さの場合や形がいびつな場合は着床率が下がると言われています。

    内膜が薄い原因としては、流産手術などの子宮内膜手術の反復や、筋腫手術によるものなどが関係するといわれていますが、原因の分からないケースも多くあります。

    子宮内膜を厚くするためにはこれまで、ホルモンの増量をしての投与や細胞分裂を促す因子の注入など、さまざまな方法が試されていますが、決め手となる方法がないのが現状です。そこで、PRPが注目され始めました。

    PRPは子宮内膜の厚くする作用がある

    PRPは、患者さん自身の血液から分離した多血小板血漿で構成されています。血小板は血液に含まれる成分で、指を切った時などに出血を止める働きがあります。血小板は、血小板由来成長因子(PDGF)、血管内皮細胞増殖因子(VEGF)、上皮細胞成長因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)など様々な細胞成長因子を含んでおり、これらの成分が傷口で放出されると、傷口の細胞増殖が活発になり、傷の治りが早まります。

    子宮内膜において、血小板から放出される、組織修復や再生を促進する働きを持つ、豊富な成長因子や細胞増殖因子が肥厚化を助ける可能性が示唆されています。

    PRPは着床を助ける作用も期待できる

    たとえ、子宮内膜を厚くする作用が期待ほどではない場合でも、着床を助ける作用が期待できるという報告もあります。ですので、内膜の厚みはあっても、これまで形態良好な受精卵を複数回移植しているのにもかかわらず妊娠に至らない、反復着床不全の症例に対して使用することも臨床ではよくあります。また、そのような例での効果も数多く報告されています。理由が分からない着床不全例では試してみる価値があると思います。

    子宮内膜PRPの方法

    PRPを使用した不妊治療のプロセスは比較的シンプルです。まず患者さんから少量の血液を採取し、専用の機器を用いて多血小板血漿を分離します。この多血小板血漿を子宮内膜に注入します。数日後に再度子宮内膜を測定して、厚さが足りなければ再度注入を行うこともあります。

    子宮内膜PRPの位置づけ

    自己の血液を使用するので拒絶反応等の危険もなく、科学的証明も充分な治療のように思われますが、PRPを使用した不妊治療についてはまだ十分な臨床データが蓄積されているわけではありません。効果の程度や適切な治療法、副作用などについては慎重な検討が必要です。現段階では、他の既存の不妊治療法との組み合わせや代替療法としての位置付けとして捉えられています。

    不妊治療の状態は、個人差が大きいため、標準化しにくい側面があります。個々の状況に応じて、PRPを含む新たなアプローチを、一定の効果が保証されている従来の治療法に加えていくことで効果を期待することになります。専門医との十分な相談を通じて、最適な治療法を見つけることが大切です。継続的な研究と検証によって、より多くのカップルが夢見る家族の実現に近づく日が来ることを願ってやみません。

    子宮内膜PRP療法のプロトコール一例(医療法人オーク会の場合)

    参考文献

    1) Platelet-Rich Plasma as a Potential New Strategy in the Endometrium Treatment in Assisted Reproductive Technology. frontiers in Endocrinology. Vol 12 2021

    2)Liu KE, et al.: The impact of a thin endometrial lining on fresh and frozen-thaw IVF outcomes: an analysis of over 40 000 embryo transfers. Hum Reprod. 33: 1883-1888, 2018. 3)Azumaguchi A, et al.: Role of dilatation and curettage performed for spontaneous or induced abortion in the etiology of endometrial thinning. J Obstet Gynaecol Res. 43:523-529, 2017.

    4) Kusumi M, et al.: Intrauterine administration of platelet-rich plasma improves embryo implantation by increasing the endometrial thickness in women with repeated implantation failure: A single-arm self-controlled trial. Reprod Med Biol. 19: 350-356, 2020