• 脳卒中後遺症に対する再生医療

    投稿日:2022年9月29日
    更新日:2024年11月5日
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    脳卒中と後遺症の現状

    脳卒中は死亡数から見ると、1位の悪性新生物(27%)、2位の心疾患(15%)、3位の老衰(8.8%)に続き4位が脳血管障害(7.7%)と順位が下がり、死亡数も減少してきていますが、脳卒中罹患者(入院数)は17万人/年(2018年)であり、リハビリを受けた後の状態で、介助を要する後遺症(mRS:3~5まで)を来した患者が41.2%を占めています。

    従来のリハビリと再生医療の期待

    これらの後遺症には、リハビリで現状維持するのが中心で、それ以上の効果を期待するものはありませんでしたが、昨今再生医療による改善が期待されています。

    再生医療に関しては、山中伸哉先生が開発されたiPSが一躍有名になりましたが、まだ一般の患者に対する治療には至っていません。

    現在、安全面、簡易性の点から、自家中胚葉由来の幹細胞を培養・増量して、点滴静注する方法が注目されるようになっています。これには2通りの方法があり、一つは骨髄の中の骨髄由来幹細胞を利用するものと、もう一つは皮下脂肪細胞組織から幹細胞を利用するものがあります。

    効果としては、ほぼ同様とされており、幹細胞採取時の患者の負担を考慮すると、簡単な局所麻酔のみで臍周囲の脂肪組織を採取できること、培養により多くの幹細胞を得られることから、外来での対応のみで治療できる脂肪由来の幹細胞の方が、より手技が簡易で有用であります。

    そこで、当院では脂肪由来の幹細胞を使用することとしました。細胞培養加工施設に培養を依頼し、約1ヶ月後、幹細胞を1億以上に培養して、それを輸送して当院外来で静脈投与を行っています(図1)。

    脂肪由来幹細胞使用と静脈投与
    図1

    対象と治療条件

    対象は、成人であり、発症から3ヶ月以降の脳卒中患者で、且つ本人が再生医療の内容を理解して希望できる状態であること、肺・消化器・乳癌など担癌状態でない事、肝炎やエイズなどの感染症のない事、一部の抗生剤に対するアレルギーが無い等が主な条件となります。

    条件が満たされれば、外来において局所麻酔下で、臍周囲の脂肪組織を採取するのみで、およそ15分で終了します。採取した組織は、細胞培養加工施設に送付し、そこで約4週間培養し、当院へ輸送されます。培養された1億以上の幹細胞を、外来で点滴静注して投与を終了します。その後、2ヶ月おきに神経症状等を検査分析し、半年で総合判断をします。これら、すべての対応が外来で出来ます。

    治療理論(メカニズム)

    幹細胞のホーミング作用と修復

    幹細胞には、色んな種類の細胞に分化する能力を持っています。

    また、この幹細胞には傷ついた臓器や組織に幹細胞自らが向かい、その組織を修復する様に働きかける、「ホーミング」という作用も兼ね備えられています。

    中枢神経系組織(神経細胞など)においては、血液が流れなくなって、血液脳関門(BBB)(異物が血管から脳に入り込めないようにする働き)が破壊される事は周知の事実です。しかし、これらの脳関門の破壊は、1ヶ月以内に修復されます。

    静脈内に投与した幹細胞が脳梗塞の病巣に集積する(ホーミング作用)メカニズムについて、ラットの実験モデルによれば、BBBは2週間で修復され、4週間後には幹細胞が梗塞巣に集積し、梗塞は修復されてきていました。このように、幹細胞はBBBの破綻の影響に関係なく、急性期・慢性期に関係なく病巣に到達することが可能と考えられています。

    治療メカニズムとして、①神経栄養因子、つまり神経細胞に細胞の外側から働く水に溶けるタンパク物質ですが、これにより、神経栄養・保護作用で幹細胞が産生する液性因子が脳梗塞巣に直接作用するため、作用時期は早く時間単位で改善します。②血管新生作用(脳血流の回復)については、梗塞発症より3日後くらいから始まり、1週間後には血管が新生され、脳血流の回復が見られるようになります。③神経再生については、1週間後から著明になり、少なくとも数ヶ月は漸増する事が、動物実験からも示唆されています。このようにメカニズムは大きく3つに分類されます。

    治療メカニズムの詳細

    ①神経栄養因子について

    臨床症状やMRI所見において統計学的にも有意に変化することが確認されている。特に、FLAIRでの高信号領(域梗塞で高信号に出る)の縮小や、局所神経の栄養を改善する因子、脳を構築するグリア由来神経栄養因子濃度の上昇が実験的にも確認されている。他に腫れを軽減する抗浮腫作用や、自分自身の細胞を壊してゆくアポトーシスの抑制作用、更に神経細胞や神経軸索の膜表面にあるイオンチャンネルに直接作用して神経の興奮性に影響を及ぼす(痙縮の改善)などが確認されています。

    ②血管新生について

    これには2通りの機序があり、梗塞巣に集積した幹細胞が血管新生因子やアンギオポエチンを分泌して血管新生を誘導するものと、幹細胞自身が血管内皮に分化して新たな血管を形成するものとがあります。

    ③神経再生について

    これにも2通りの機序がある。梗塞巣に集積した幹細胞が、元の脳が持っている内因性の神経発生を促進することと、移植された幹細胞が神経細胞やグリア細胞に分化することです。

    再生医療により、これらの働きによって、麻痺、感覚障害、失語症、認知症などの後遺症に悩んでいる患者の方々のお役に立てる事を願っております。