• 変形性膝関節症に対する再生医療-専門クリニックの実際(治療の概要・流れ・成績)

    変形性膝関節症に対する再生医療-専門クリニックの実際(治療の概要・流れ・成績)
    投稿日:2023年2月22日
    更新日:2023年11月2日
    カテゴリー:

    再生医療の実用性

    変形性膝関節症に対する再生医療は徐々に実用化されつつあります。世間でイメージされているような「軟骨や骨の再生」効果は検証段階であり、痛みの改善、腫れの改善、可動域の改善といった効果が期待される治療です。

    再生医療の立ち位置

    再生医療の対象は主に「変形性膝関節症」です。年齢による変化で軟骨がすり減り、関節内の炎症や痛みが生じる疾患です。加齢や肥満、遺伝子因子などによって発症する一次性変形性膝関節症と、外傷などをきっかけに発症する二次性変形性膝関節症に分類され、多くの患者は一次性変形性膝関節症に該当します。超高齢化社会の日本においては、深刻な疾患であり、誰もがかかる可能性があります。

    これまでは主に「従来の保存療法」と「手術治療」が行われてきました。しかし、「長年整形外科に通っているけれど良くならない」「ヒアルロン酸注射やリハビリは効かないけれど手術は絶対にやりたくない」といった方に向けて、再生医療が存在しています。再生医療は、従来の保存療法と手術治療の間を補完する立ち位置にあります。当院は、2015年に発足した再生医療専門クリニックであり、2023年現在、全国14施設において自由診療で治療を行っています。

    変形性膝関節症の治療方針

    再生医療の一覧

    当院で行っている治療を紹介していきます。膝の再生医療を検討中の方は参考にしてください。

    ①脂肪由来幹細胞(ASC)治療

    概要

    幹細胞は、自己複製能や分化能を有するため、様々な分野で期待されています。当院では、局所麻酔下で簡単に採取できる皮下脂肪から幹細胞を採取し、培養してから膝関節内に注射する治療を行っています。
    培養幹細胞治療は2014年に施行された「再生医療等安全性確保法」の規定の中で行うことができます。注入した幹細胞が傷んだ組織に直接生まれ変わるイリュージョン的な治療ではなく、幹細胞から放出される液性因子のはたらきかけに、ホストである患者さんの組織や細胞が応えることで、抗炎症作用や自己修復作用を促進することが期待されます。

    治療の流れ

    局所麻酔で下腹部の皮下脂肪を20ml採取します。所要時間は10分程度で、入院の必要はありません。特定細胞加工施設において、6週間の工程を経て、脂肪から幹細胞を取り出し、それを培養して薬液に加工します。当院では1膝に1000万個以上の幹細胞を注射しています。

    治療成績

    治療後2年間にわたって、世界で共通している患者主体評価を用いて治療成績を調査しました。その結果、痛みの度合いや日常生活動作のしやすさなどのデータは有意に改善していました。また約60%の患者さんでレスポンダー(奏功)という結果が得られました。変形性膝関節症の初期、進行期、末期で治療経過を比較すると、初期は治療効果が出やすいことが分かりました。またMRIを用いた軟骨調査では、末期の場合、後述するPFC-FD療法と組み合わせた治療が、最も軟骨体積が増加する可能性が分かってきました。

    ②PFC-FD治療(当院ではPRP-FD治療の名称で行っています)

    概要

    患者さんの血液を遠心分離して得られる、血小板を多く含む分画を多血小板血漿(PRP)と言います。PRPを膝関節に注射することで、血小板内の成長因子やサイトカインの、組織修復や抗炎症・除痛効果を期待することができます。
    PFC-FD治療はこのPRPを応用した治療です。PRPと比較して、血小板内の成長因子が安定して抽出できる事、副反応が少ない事、常温保存が可能なため、患者さんの都合に合わせて注射日を自由に選択できる事が長所です。

    治療の流れ

    PRPを作製後、3週間かけて、血小板内の成長因子を活性化させる処置を施し、凍結乾燥させます。注射するときはクリニックで生理食塩水で溶解して注射します。

    治療成績

    PFC-FD治療の結果、治療2年後の患者主体評価は、有意に改善していました。また膝の変形が軽度なほど、治療効果が出やすいことも分かってきました。さらにPFC-FD治療後平均8ヶ月にMRIを行い、3次元的に軟骨体積を測定した結果、有意に軟骨体積が増加していました。この軟骨に対する薬効は、PFC-FD治療を1回行うよりも、複数回行った方が効果が高いことも分かってきました。


    当院の過去の臨床成績をまとめると、一定の効果が認められています。しかし製薬会社が作製した薬剤と違い、自己の組織(血液や脂肪)から得られた薬液を活用する治療であるため、効果に個人差があります。膝の変形の度合いや筋力、体重といった要素も治療成績に影響します。ですから再生医療を受けるすべての方に効果を保証するものではございません。

    それでも内服薬やリハビリ、ヒアルロン酸注射を始めとした従来の保存療法を長期間実施しても改善せず、手術を勧められているがやりたくない、という方はぜひご検討いただけたら幸いです。

    ひざ関節症クリニックは14院ございます。是非お問合せ下さい。

    福岡院 / 小倉院 / 広島院 / 神戸院 / 大阪院 / 京都院 / 名古屋院 / 横浜院 / 恵比寿院 / 新宿院 / 銀座院 /

    大宮院 / 仙台院 / 札幌院

    参考文献

    1、変形性膝関節症に対するBiologic healing専門クリニックの実際とエビデンス構築(特集 幹細胞・PRP・衝撃波?Biologic healingのエビデンス)
    大鶴任彦、横田直正、尾辻正樹、保田真吾、輿石暁、岡崎賢
    関節外科39(9):33-42,2020

    2、変形性膝関節症に対するバイオセラピ-におけるSYNAPSE VINCENTを用いた関節軟骨評価
    大鶴任彦,前川祐志,尾辻正樹,岡崎賢
    関節外科 41(5):105-109,2022

    3、変形性膝関節症に対するPFC-FD注射におけるMRI三次元自動解析ソフトウェアを用いた軟骨評価 -単回注射vs. 3回注射-
    大鶴任彦、前川祐志、尾辻正樹、岡崎賢
    関節外科 41(11):117-121,2022

    4、バイオセラピー単独治療の臨床成績
    大鶴任彦, 前川祐志, 尾辻正樹, 岡崎賢 
    第2回日本Knee Osteotomy & Joint Preservation研究会プログラム・抄録集:42,2022

    5、Monotherapy for Knee Osteoarthritis Using Freeze Dried Noncoagulating Platelet-Derived Factor Concentrate
    Tadahiko Ohtsuru, Masaki Otsuji, Jun Nakanishi, Norimasa Nakamura, Stephen Lyman, Hiroto Hanai, Kazunori Shimomura, Wataru Ando
    Under article submission

    コラムの監修者
    大鶴任彦(おおつる ただひこ)

    大宮ひざ関節症クリニック
    大鶴 任彦

    医療法人社団活寿会 大宮ひざ関節症クリニック 院長
    東京女子医科大学病院 整形外科学教室 非常勤講師
    資格:医学博士、日本整形外科学会認定専門医、日本股関節学会学術評議員、身体障害者福祉法指定医、厚生労働省認定臨床研修指導医
    専門:膝・股関節疾患、再生医療(バイオセラピー)