歯周組織再生療法の「今」と「今後の展望」- 骨や歯肉を人工材料や自身の体の一部を用いて再生させる医療法
更新日:2024年9月2日
歯周病ってどんな病気?
今日、日本人の約8割が歯周病に罹患していると言われています。そのうち歯科医院で治療を受けているのは1割以下であり、ほとんどの人は自分が病気であることを自覚しないまま生活しています。
世界規模で新型コロナウィルス感染症が蔓延し、私たちの日常が失われてしまってから、はや2年余りが経ちました。しかし、歯周病という感染症はそれよりもうんと昔から存在し、21世紀に入ってからは『地球規模で蔓延している、人類最大の感染症』としてギネスブックに公式認定されました。
では、具体的に歯周病とはどのような病気なのでしょうか?
歯周病は歯の周りに歯垢や歯石が付着し、そこへ歯周病原因菌が繁殖することで引き起こされます。初期症状では歯肉が赤くなって出血したり腫れたりする程度ですが、進行すると歯がぐらついたり強い痛みの症状が現れます。適切な治療を受けず放置していると最終的には、歯が自然脱落してしまいます。
歯周病の治療とはいかに早く、歯周組織(歯を支える骨や歯肉などの組織)が失われる前に始めるかが重要となります。一度失われた歯周組織は、簡単に元には戻らないからです。
歯の寿命をろうそくと想像してみてください。歯周病に罹患してしまうと、ろうそくに火が灯され少しずつろうそくは短くなっていきます。治療を受けて歯周病が落ち着いた状態になると、ろうそくの火も消えます。
しかし、一度溶けてしまった部分が自然と元の長さに戻ることはありません。歯周病が再発してしまうと、短くなったろうそくに再び火が灯ります。それを繰り返すうちにろうそくは全て燃え尽き、歯は寿命を終えるのです。
歯周病にならないためにはどうするの?
歯周病で歯を失うことを防ぐために一番大切なことは歯周病にならないことです。当たり前だと思うかもしれませんが、日本国民はその当たり前が実践出来ずに約半分の人が歯周病のため歯を抜くことになっています。
日本と欧米諸国で、80歳時点での平均残存歯数(何本歯が残っているか)を比べてみると、日本では平均8本に対して、なんとアメリカでは17本、スウェーデンでは25本となっています。どうしてここまで大きな差が生まれてしまうのでしょうか。
欧米では予防歯科が基本であり、歯周病になっていないのに、8割以上の人が歯科医院で定期検診を受けています。それに対して日本では5%以下で、大多数の人達は既に病気が進行した状態になって初めて歯科医院を訪れます。これでは歯周病から歯を守ることは難しいでしょう。
日本は世界一の高齢社会です。死ぬまで美味しいものをしっかり噛んで食べる。そんな当たり前の幸せも歯がなければ感じることは難しくなります。
いつまでもしっかり噛める、美味しく食べる幸せを
では、既に歯や歯周組織を失ってしまった場合、打つ手はないのでしょうか?現状では、自分の天然歯を残したまま歯周組織を再生する歯周組織再生療法と、失われた天然歯の代わりに再び歯を作り出すインプラント治療が主要な再生療法として日常的に行われています。
今回は歯周組織再生療法についてお話をさせて頂きます。
先ほどのろうそくの例えをもう一度想像してください。歯周組織再生療法とは、例えば半分燃え尽きたろうそくに、ろうを継ぎ足すことで元々の長さまで回復させることを目的とした処置です。元々の長さより長くすることはできませんが、ろうそくが少しでも長くなれば、再び歯周病になってしまっても燃え尽きるまでの猶予、すなわち歯の寿命が延長されることになります。
具体的にいうと、失われた骨や歯肉を人工材料や自身の体の一部を用いて再生させる医療法です。使われる材料は様々な形状、性質を持っていますが、ほとんどの材料に共通することは、体内で吸収され、自分の組織に置き換わるものが多いということです。歯を支える歯周組織が再生されれば、結果として歯の寿命は延びます。そして、より長く自分の歯でしっかり噛める期間が長くなり、患者さんの満足へと繋がります。
実際の患者さんのレントゲン画像です。
この患者さんの口腔内では歯周病が進行し矢印部分の歯を支える骨(歯槽骨)が失われてしまいました。術前では赤いラインまで下がってしまった歯槽骨が、再生療法を行うことで青いラインまで再生したことが確認できます。
こちらの患者さんは歯を覆う歯肉が失われ歯の根っこが露出してしまったため、歯肉の移植を行って歯肉を再生させた方です。
歯の根っこの表面は、歯の頭の白い部分に比べて虫歯に6倍なりやすいと言われています。また、根っこの先端まで歯肉が下がり続けると、支えがなくなり、歯を失う原因になります。
見た目がキレイになるだけではなく、虫歯や歯周病のリスクを減らし、歯を長持ちさせる治療法の一つです。
これからの歯周組織再生療法
再生療法という分野は日々研究が進み、年々新しい材料や治療方法が確立されています。
例えば子供の時に生えていた乳歯の中には、幹細胞という他の細胞に変化し得る事ができる特殊な細胞が多く含まれています。その幹細胞に化学的な物質を使って指令を出すと、様々な細胞に性質が変化する事がわかってきています。
今現在では天然歯を支える歯周組織のみを再生させるに留めていますが、将来的には天然歯そのものを再生させる事ができるかもしれません。
新しい治療法で一人でも多くの患者さんに満足してもらうため、私たち医師は新しい知識や技術を習得し続けています。
そしていつの日か、歯周病など多くの人を悩ませる病気が克服されることを願っています。