• インスリン注射が不要に!?糖尿病に対する再生医療

    投稿日:2024年9月11日
    更新日:2024年9月11日
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    糖尿病とは

    糖尿病は、現在の医療技術では完治(根治)することが難しいとされています。日本国内だけでも約1,000万人が糖尿病患者であり、また、その予備軍も含めると、国民の約5人に1人が糖尿病に関連する症状を抱えていると言われています。このように、糖尿病は現代社会において非常に一般的な疾病となっています。

    糖尿病は、血糖値(血液中の糖分濃度)が高い状態が続く病気です。血糖値が高くなると、体内の臓器や血管に負担がかかり、様々な合併症を引き起こす原因となります。通常、人間の身体は、食事を摂ることで血糖値が上がると、膵臓にあるランゲルハンス島のβ細胞から分泌されるインスリンというホルモンによって、血液中の糖分をエネルギーとして細胞に取り込んだり、余分な糖を脂肪として蓄積することで血糖値を一定に保つ機能が備わっています。しかし、糖尿病患者の場合、このインスリンの分泌が不足したり、体がインスリンに対する反応が鈍くなったりすることで、血糖値が適切にコントロールできなくなるのです。

    糖尿病の症状とそのリスク

    糖尿病の症状は、初期段階では非常に曖昧で、自覚がない場合が多いです。しかし、症状が進行すると、極度の喉の渇き、頻尿、体重減少、疲労感、視力低下などの症状が現れることがあります。これらの症状は、血糖値が長期間にわたり高い状態が続くことによって、体のさまざまな部分にダメージを与えるために起こります。

    さらに、糖尿病が進行することで、神経障害や網膜症、腎症といった深刻な合併症が発生するリスクも高まります。これらの合併症は、糖尿病患者の生活の質(QOL)を著しく低下させ、治療が進まない場合には透析治療や失明、手足の切断に至ることもあります。実際、糖尿病そのものが直接的な死因となることは少なく、免疫力の低下によって感染症にかかりやすくなったり、合併症によって他の病気を引き起こしたりすることが多いです。

    糖尿病の合併症と「しめじ」、「えのき」、「こがに」

    糖尿病による合併症は、しばしば「しめじ」(し:神経障害、め:網膜症、じ:腎症)や「えのき」(え:壊疽、の:脳血管障害、き:虚血性心疾患)、「こがに」(こ:骨粗鬆症、が:癌、に:認知症)というように覚えられています。これらの症状は、血糖値が高い状態が続くことで、体全体にダメージを与えるために発生します。

    例えば、神経障害(し)は、血糖値が高いことによって神経が損傷し、感覚異常やしびれ、痛みを引き起こします。また、網膜症(め)は目の血管に影響を与え、最悪の場合、失明に至ることがあります。そして、腎症(じ)は腎臓が正常に機能しなくなることで、透析が必要になることも少なくありません。

    1型糖尿病と2型糖尿病

    糖尿病は大きく1型と2型に分類されます。1型糖尿病は、自己免疫疾患によって膵臓のランゲルハンス島が破壊され、インスリンを分泌するβ細胞が機能しなくなることで発症します。このため、1型糖尿病の患者は日常的にインスリン注射を行わなければなりません。遺伝的な要因やウイルス感染が原因とされており、予防策は確立されていません。

    一方で、2型糖尿病は主に生活習慣が原因となって発症する病気です。特に食生活の乱れや運動不足が大きく影響し、肥満やメタボリックシンドロームが引き金となることが多いです。2型糖尿病の治療は、食事療法や運動療法、そして場合によっては薬物治療によって血糖値をコントロールします。重症化した場合には、1型糖尿病と同様にインスリン注射が必要となることもあります。

    3型糖尿病について

    最近では、アルツハイマー型認知症と糖尿病との関連性が指摘され、3型糖尿病と呼ばれる概念も提唱されています。これは、脳内のインスリン抵抗性がアルツハイマー病の発症リスクを高める可能性があるとされており、糖尿病と認知症の関連性が注目されています。糖尿病患者は認知症のリスクが高まるため、血糖値の適切な管理が認知症予防にもつながると考えられています。

    1型糖尿病に対する再生医療の進展

    再生医療は、糖尿病治療においても大きな期待を寄せられています。現在、日本国内では「インスリン依存性糖尿病に対する同種膵島移植」が再生医療提供計画として進められており、複数の大学病院でその実績が報告されています。この治療法では、亡くなった方から提供された膵臓のランゲルハンス島を糖尿病患者に移植し、インスリンを分泌する機能を補うことが目的です。しかし、ドナー不足が大きな課題であり、症例数が限られているのが現状です。

    iPS細胞を用いた新たな治療法

    これに代わる治療法として、近年注目されているのがiPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療です。京都大学医学部附属病院は、2025年より1型糖尿病に対するiPS細胞を用いた治験を開始し、2030年以降の実用化を目指すと発表しました。iPS細胞は、健康な人の細胞から作られた多能性幹細胞であり、これを基にランゲルハンス島のβ細胞を生成し、患者に移植することで、血糖値の上昇に応じてインスリンが分泌されるようになることが期待されています。

    この技術は、亡くなった方から提供される臓器を必要としないため、ドナー不足の問題を解消する可能性があります。アメリカでは、すでに幹細胞を用いたランゲルハンス島の作成と移植に関する臨床試験が行われ、全ての患者において細胞の定着とインスリン分泌が確認されています。

    再生医療がもたらす未来

    iPS細胞を用いた再生医療は、糖尿病だけでなく、パーキンソン病などの他の難病治療にも応用されています。1型糖尿病に対する治療が成功すれば、将来的には2型糖尿病の治療にも利用できる可能性があり、また糖尿病の合併症を予防する手段としても大いに期待されています。

    私たちの人生は「人生100年時代」と言われるようになりました。これからも再生医療に関する最新の情報を共有し、より多くの人々のQOL(生活の質)を向上させることが重要です。