脂肪由来間葉系幹細胞とは?その効果と治療薬としての将来
更新日:2024年11月5日
脂肪由来の間葉系幹細胞
皮下脂肪といいますと、私もふくめて多くの中高年の方が、大きくなるおなかを見てはため息をもらすものですが、この皮下脂肪の中になんと重症の病気をなおす能力のある多能性の幹細胞があることが2000年代初頭に明らかとなりました。
再生医療への応用と現状
この脂肪由来の間葉系幹細胞は増殖力があり、また、ある栄養素をあたえると、容易に脂肪細胞、軟骨細胞になったりします。さらには、様々な条件、栄養素によって、筋肉細胞、肝細胞へも分化することが、その後の研究でも明らかになり再生医療のツールとして注目されるようになりました。
そこで、いろいろな研究者がその細胞について臨床への応用を行ってきましたが、今のところ、保険の適応となっているのは、脂肪由来ではなく、骨髄由来の間葉系幹細胞の点滴治療薬のみです。この治療薬は白血病などの血液の癌において骨髄移植の合併症としての生じる移植片対宿主病に対して認められています。この免疫細胞の暴走を鎮静化するはたらきがこの間葉系幹細胞にはあります。
脂肪由来間葉系幹細胞を用いた治療
現在、世界的な脅威となっている新型コロナ感染症による重症肺炎に対しては、脂肪由来間葉系幹細胞の治療が臨床試験で、主に日本以外で臨床研究がなされ、致死性の高い重症患者での救命例もみられてもいます。しかし科学的にこれが絶対に効くというレベルの治療効果は得られてないようです。
治療効果のメカニズム
さて、その治療の効果についてですが、最初は前述のとおり、心臓や肝臓などの細胞に変化してその効果をもたらすと考えられていましたが、その後、細胞の分泌するサイトカインという細胞間伝達物質といえる蛋白の効果が主要な作用と言うことが明らかにされました。
エクソソームとミトコンドリアの役割
最近の研究では脂肪由来間葉系幹細胞が分泌する小胞体であるエクソソーム(脂質にかこまれた物質)も遺伝子レベルでさまざまな細胞内情報伝達を調節するマイクロRNAを含むといわれ、この細胞の治療効果の重要な因子と考えられています。さらに間葉系幹細胞のなかに含まれるミトコンドリアも治療を必要としている細胞に取り込まれその細胞がまた元気になるのに貢献しているということもわかってきています。
治療効果が期待される疾患と課題
現在、自由診療としておこなわれている脂肪組織由来の間葉系幹細胞ですが、今のところ、臨床研究では限定的であり、保険がカバーする治療とはなっていません。保険診療の治療となるためには、治療効果がもっと確実でなければいけません。また、その治療機序にはまだまだ不明な点もあります。
特に癌の種類によっては、間葉系幹細胞がかえって癌を元気にする可能性もあります。しかしながら、さらに研究が進み、間葉系幹細胞の治療効果の全容があきらかとなれば、将来、先進医療として、保険診療としての治療薬となる可能性は十分にあります。特に難病でいまだ治療薬がない病気に対しては、これから期待される治療ツールです。