• 【iPS細胞、幹細胞、ES細胞、PRPなど】再生医療に用いる細胞を解説

    投稿日:2024年3月12日
    更新日:2024年10月16日
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    再生医療を加速させるiPS細胞の発見

    2012年、京都大学の山中伸弥教授が「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞しました。4つの遺伝子を、皮膚から採取した線維芽細胞に導入することで、様々な体細胞に分化可能な多能性と、ほぼ無限の増殖性を持つ、人工多能性幹細胞を作製することに成功しました。iPS細胞(induced pluripotent stem cell)として、広く一般にも知られているかと思います。また、これをきっかけに、「再生医療」という言葉も、広く一般に知られるようになったかと思います。

    今までも、幹細胞であったりES細胞を用いた、再生医療の研究はされていましたが、多能性に関しての問題であったり、倫理的な問題がありました。

    iPS細胞の作製の成功は、まだ治療法が確立されていない難病の原因解明や、新しい治療法の開発、薬剤の開発などに新たな道を開く、大変有意義で素晴らしいものでありました。

    ここまででも、iPS細胞、幹細胞、ES細胞と、様々な種類の細胞が出てきていますが、今回は、これら再生医療に用いられる細胞などに関して、お話しできればと思います。

    ES細胞とは

    ES細胞は胚性幹細胞(embryonic stem cells)のことで、簡単にいうと、受精卵の中にある細胞のことで、理論上すべての組織に分化する多能性を持ち、ほぼ無限に増殖させることができるため、万能細胞の一つとして再生医療への応用が期待されています。

    このES細胞が発見されたのは今から40年以上前、1981年にイギリスのケンブリッジ大学の研究チームが発見しました。

    このES細胞は、有力な万能細胞として、再生医療への応用が期待されており、マウスやラットなどから作製したものは、様々な疾病の研究や薬剤の開発に活かすべく、幅広く多くの基礎研究に活用されています。

    しかし、先述したように、受精卵(または胚盤胞)を用いることから、新たな命を壊してしまうため、特にヒトES細胞に関しては、倫理問題の対象となっています。先進国では、作製を認めていない国も多く、日本では不妊治療で母体に戻されず破棄が決定したものを利用することに限って、ヒトES細胞の作製が認められています。日本では、患者自身の細胞を用いらないとならないため、治療への実用化は非常にハードルが高いかと思います。

    その一方で、脊髄損傷、脳梗塞、肝硬変、心筋症、パーキンソン病などの神経変性疾患など、根治できなかった疾病の治療に活用できる可能性があることから、作製を認めている国もあります。

    iPS細胞技術の課題と未来の展望

    iPS細胞は、再生医療における大きな飛躍を可能にした技術ですが、その応用にはいくつかの課題があります。まず、iPS細胞のがん化リスクが挙げられます。iPS細胞は無限に増殖する性質を持つため、適切に制御されない場合、腫瘍の形成を引き起こす可能性があります。このリスクを克服するため、現在様々な技術が開発され、分化過程を制御することでがん化リスクを抑制する方法が模索されています。

    次に、コストの問題です。iPS細胞の作製には多くの資源と時間が必要であり、その結果、治療コストが高くなることが課題です。この問題に対処するために、細胞のバンクを作り、広く使用できるような仕組みが整備されつつあります。これにより、患者ごとにiPS細胞を作成する必要がなくなり、治療のスピードと効率が向上することが期待されています。

    iPS細胞は、研究段階から臨床応用に至るまで、安全性の確認が必要不可欠です。臨床試験は時間がかかり、十分なデータを収集しなければなりませんが、このプロセスが進むことで、iPS細胞を使った再生医療の実用化がさらに加速するでしょう。未来には、がん治療や神経系の疾患、さらには臓器再生に至るまで、iPS細胞の応用が広がることが予想されます。

    iPS細胞とは

    ES細胞は万能性を持ちながら、倫理的な問題を抱えていますが、これらを解決できると期待されているのが、iPS細胞です。

    iPS細胞は、皮膚や血液など低侵襲で採取可能な組織の細胞から作製することが可能でありながら、多くの細胞に分化できる万能性と、自己複製能を持っています。

    この分化万能性を持ったiPS細胞は、理論上、体のすべての組織や臓器に分化誘導することが可能です。これによって、患者本人から採取した細胞からiPS細胞を樹立できれば、様々な疾病に活用したり、拒絶反応のない臓器移植が可能になることが期待されています。また、ES細胞が持っていた、倫理的な問題もなく、様々な研究や治療に用いることが可能です。

    京都大学iPS細胞研究所は、患者がiPS細胞を必要とした際に、短期間に低コストで提供するために、日本人の9割をカバーできるよう備蓄することを目標としていましたが、多額の費用と、非常に多くの工程を必要とするため、方向転換を余儀なくされています。

    また、がん化などの課題もありました。こちらに関しては、様々な研究がなされ、抑えることに成功していますが、分化する際に生じた変異が蓄積されることによる疾病リスクなど、課題はまだ残っています。

    しかし、様々な疾病に対する基礎研究だけでなく、非常に多く再生医療への応用がされています。具体的には、角膜移植、パーキンソン病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、脊髄損傷の治療、がん治療、加齢黄斑変性の治療など、枚挙に暇がないです。

    これからも多くの研究がされることで、様々な疾病の根治に繋がることを願っております。

    ES細胞とiPS細胞の比較:メリットとデメリット

    再生医療における重要な技術であるES細胞とiPS細胞は、それぞれに独自のメリットとデメリットを持っています。ES細胞は、胚から作成される胚性幹細胞であり、すべての体細胞に分化できる万能性を持ち、無限に増殖できるという強力な特性があります。この万能性により、基礎研究や新薬の開発、組織再生の分野で広く使用されてきました。

    一方で、ES細胞には倫理的な問題が伴います。ヒトのES細胞を作成するためには受精卵を使用する必要があり、その過程で新しい生命が破壊されることが避けられません。このため、ヒトES細胞の使用は多くの国で厳しく規制されています。

    これに対して、iPS細胞は患者自身の細胞から作成できるため、拒絶反応のリスクが低く、また倫理的な問題がないというメリットがあります。さらに、iPS細胞は個別の患者に適応させた治療を行うことができ、オーダーメイド医療の実現が期待されています。しかし、iPS細胞は作製に手間とコストがかかり、がん化のリスクを完全に排除することがまだできていません。

    両者の違いは、再生医療の場面に応じてどちらを使用するかを選択する際の重要な要素となります。臓器移植や神経疾患の治療では、iPS細胞が有利とされる場面が増えていますが、ES細胞の特性も依然として強力であり、両者を組み合わせた研究が進められています。

    幹細胞

    こちらに関しても、iPS細胞と同じくらい、見聞きした経験がある方が多いと思います。

    特に化粧品などで、幹細胞コスメというものを目にしたことがあるかも知れません。少し脱線してしまいますが、再生医療等安全性確保法という、再生医療等を提供する際に遵守すべき法律があり、幹細胞などの取り扱いに関して、厳格に規制されており、化粧品には幹細胞を用いることはできません。幹細胞コスメには、幹細胞を培養した際に産生された上澄み液である、幹細胞培養上清液が用いられています。この幹細胞培養上清中にも、成長因子などの有効な成分が含まれていることから、様々な活用ができないかと研究がされています。

    話を戻しまして、幹細胞(stem cell)というのは、様々な部位に存在しており、分裂することで自身と同じ細胞を作り出す自己複製能と、別の種類の細胞に分化する能力、増殖し続けることができる細胞です。

    先述したES細胞も胚性幹細胞という、幹細胞の一種です。生体内の組織にも組織幹細胞、体性幹細胞という幹細胞がありますが、これらは万能ではなく、分化できる細胞の種類が限定されています。例えば骨髄から得られる造血幹細胞は、血球のもととなり、神経幹細胞は神経細胞などになります。他にも、肝臓をつくる肝幹細胞、皮膚組織になる皮膚幹細胞、また生殖細胞を作り出す生殖幹細胞など、様々な種類があり再生医療に応用するために研究が行われています。

    再生医療への応用としては、低侵襲で採取しやすい、脂肪由来の間葉系幹細胞を用いるものもあります。これは、間葉系に属する細胞への分化能を持ち、骨細胞、心筋細胞、軟骨細胞、腱細胞、脂肪細胞などになります。米粒ひとつ程度の脂肪組織を採取し、培養して細胞を増やしたものを、変形性膝関節症などの治療や、脳卒中の後遺症、動脈硬化など様々な治療などに用いられています。

    PRP

    採血した後に遠心分離機を用いて、血小板のみを凝縮させたものが、多血小板血漿でPRP(platelet-rich plasma)とも呼ばれます。血小板を多く含む血漿凝縮物で、血小板の濃度は、通常の7倍にもなることもあります。切り傷などをした際に、血が止まるのは血小板の働きによるものです。このPRPには、成長因子が豊富に含まれることから、再生医療に応用されています。以前にも書いたことがありますが、メジャーリーガーの大谷翔平選手などが肘の治療にPRP療法を受けており、比較的認識度が高いと思います。

    肘の他にも、膝関節症や、歯科治療ではインプラントの際に骨再生のために用いられたり、しわ改善などの美容医療など、幅広く用いられています。

    その他、皮膚の再生医療に用いられる線維芽細胞や、がん治療に用いられるものとして、NK細胞や免疫細胞、樹状細胞ワクチン、活性化リンパ球療法、αβT細胞療法、γδT細胞療法などがあります。

    細胞というのは生き物で、1つ1つに個性があり、本当に奥深いものです。基礎研究や臨床研究の研究者や医療機関の方々、細胞培養加工施設の方々と、私どもも実際に接していて、人生100年時代のQOLを高めるためであったり、難治性の疾病の根治のために、情熱を持って取り組んでいらっしゃるのを強く感じています。

    再生医療に関する様々な研究や、私どものポータルサイトが、皆さまの病状改善や、QOLの向上に役立つことを、切に願っております。